名古屋高等裁判所 平成6年(う)246号 判決 1996年1月31日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一六年に処する。
原審における未決勾留日数中一三〇〇日を右刑に算入する。
理由
第一ないし第四<省略>
第五 尊属監禁の法改正について
原判決後の刑法改正について職権で検討する。平成七年六月一日から平成七年法律第九一号刑法の一部を改正する法律が施行された。改正後の刑法(以下、新法という。)には改正前の刑法(以下、旧法という。)二二〇条二項に相応する尊属監禁の加重規定がないが、自己又は配偶者の尊属を監禁した場合の処罰を廃止したものではなく、この場合も新法二二〇条の監禁罪(旧法二二〇条一項と同旨)の成立を認める趣旨と解される。そして、前記法律第九一号附則二条一項ただし書が尊属加重規定の適用について同条項本文前段の例外を定めた結果、右改正前に犯した尊属監禁の行為についても新法二二〇条の適用が考慮されることになった。これを本件についてみるに、原判示第一の行為中、当時の妻の母である春川を監禁した点は、行為時においては旧法二二〇条二項(六か月以上七年以下の懲役刑)に、裁判時においては新法二二〇条(三か月以上五年以下の懲役刑)に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから、右附則二条一項本文前段により旧法六条、一〇条を適用して右両者を比照し、軽い裁判時の新法二二〇条を適用することになった。
原判決は平成六年六月三〇日右監禁につき旧法二二〇条二項を適用したが、原判決後の法律改正により刑の軽い新法二二〇条が適用されることになったから、刑訴法三八三条二号の控訴理由である「判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと」のうちの刑の変更があったことになる。ところで、被告人は、原判示第一において右監禁のほかに傷害、恐喝未遂も犯しており、後記のとおり監禁と恐喝未遂との間には手段結果の関係があり、恐喝未遂と傷害とは一個の行為で二個の罪名に触れる関係にあるから、結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い恐喝未遂罪の刑で処断すると、右刑の変更は原判示第一の関係では処断刑の短期に影響を及ぼすことになるが、本件では被告人は併合罪の関係にある原判示第二ないし第六の罪をも犯しており、再犯加重したうえこれらの罪のうち最も重い罪の刑に法定の加重をすると、右刑の変更は結論として処断刑の短期のうえでも影響を及ぼさないことになる。しかしながら、刑訴法三八三条二号では刑の変更とのみ規定し、それが判決に影響を及ぼすことの明らかな場合に限定していないから、科刑上の一罪の処理及び併合罪加重の処理を経た結果処断刑の範囲に影響を及ぼさないときでも、なお同条号の刑の変更に当たると解すべきである。そうすると、原判示第一の事実について破棄理由が認められるところ、原判決は原判示第一の罪とその余の各罪とは併合罪の関係にあるとして一個の刑を科しているから、結局原判決は全部破棄を免れない。そこで、刑訴法三九七条一項、三八三条二号により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により更に判決するが、新法二二〇条は旧法二二〇条二項とは構成要件及び罪名が異なるので、原判示第一の事実に代えて新たに事実認定をする。
(原判示第一の事実に代えて当裁判所が新たに認定した事実)<省略>
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
当裁判所の認定した被告人の判示第一の所為のうち、監禁の点は新法二二〇条に、恐喝未遂の点は右附則二条一項本文前段により旧法二五〇条、二四九条一項に、傷害の点は平成三年法律第三一号による改正前の刑法二〇四条、同改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に(裁判時においては右附則二条一項本文前段により旧法二〇四条に該当するが、旧法一〇条により軽い行為時法の刑による。)、原裁判所の認定した判示第二の所為のうち逮捕監禁致傷の点は旧法六〇条、二二一条(二二〇条一項)に、強姦の点は同法六〇条、一七七条前段に、原判示第三の所為のうち監禁の点は同法二二〇条一項に、強盗致傷の点は同法二四〇条前段に、強制わいせつの点は同法一七六条前段に、原判示第四の所為は同法一八一条(一七六条前段)に、原判示第五の所為は同法二三五条に、原判示第六の所為は同法一九〇条にそれぞれ該当する。
判示第一の所為の監禁と恐喝未遂との間には手段結果の関係があり、恐喝未遂と傷害は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条を適用し結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い恐喝未遂の罪の刑(ただし、短期は監禁罪の刑のそれによる。)で処断し、同法一〇条を適用し、原判示第二の逮捕監禁致傷罪については同法二二〇条一項所定の刑と平成三年法律第三一号による改正前の刑法二〇四条、同改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号所定の刑とを比較し、重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし、短期は監禁罪の刑のそれによる。)によって処断するが、逮捕監禁致傷と強姦は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるので、旧法五四条一項前段、一〇条を適用して一罪として重い強姦罪の刑で処断し、原判示第三の監禁、強盗致傷、強制わいせつは一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるので、同法五四条一項前段、一〇条を適用して一罪として最も重い強盗致傷罪の刑で処断する。原判示第三、第四の各罪については所定刑中いずれも有期懲役刑を選択する。
被告人には原判示の累犯前科があるので、同法五六条一項、五七条を適用して判示第一、原判示第二ないし第六の各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重(ただし、原判示第二ないし第四の各罪について同法一四条の制限内)をし、以上の罪は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い原判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で諸般の事情を考慮し、被告人を懲役一六年に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一三〇〇日を右刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 土川孝二 裁判官 松村恒 裁判官 柴田秀樹)